เข้าสู่ระบบ遼大の体から放たれる威圧感を私も感じていた。威圧感の中には激しい怒りや激情が隠されていた。こんなふうに怒りの感情を混ぜるところを私は見た事が無かったかもしれない。今まで遼大は私の前ではいつも優しく穏やかだったから。その威圧感に気圧されるように、八重樫一晟が言う。「分かった……話す。千堂の何が知りたい?」八重樫一晟がそう聞いた時には、遼大は歩き出し、私の隣に来ると私の腰を抱き寄せた。賀神さんがタブレットを操作しながら聞く。「愛沢くるみについて、だ」賀神さんが言うと、八重樫一晟が苦笑する。「愛沢くるみか……あの女の事は僕も良く知らないんだ」そう言う八重樫一晟の雰囲気がさっきよりも柔らかい感じがした。「医学的な事は良く分からない。ただ千堂弘から聞いた話では、愛沢くるみは特異体質だと言っていたよ」ずっと黙ったまま話を聞いていた湊が口を開く。「特異体質っていうのは?」そう聞かれた八重樫一晟が言う。「千堂弘の異母兄が開発した愛欲の女王と絶望の王について、もしかしたら愛沢くるみは自身の体の中で解毒が出来ているのかもしれない、という仮説が千堂弘の主張だよ」愛欲の女王の解毒……。「長年、愛沢くるみはサロン・ド・オーキッドで仕事をしながら、改良されて来た愛欲の女王を使い続けて来た筈だ。そして」八重樫一晟はそこで言葉を切り、私たちを見る。「君たちの手中に居る、千堂彰の息子、千堂理がベンゾマスクになっているのを私も知っているが、愛沢くるみにはその症状が出ていない、もしくは、症状が出るのが遅い」そう言われて湊が言う。「その違いは何なのか……」それを聞いた八重樫一晟が頷く。「そこに千堂弘が着目した」確かに言われてみれば、長年、愛欲の女王を使っている愛沢くるみにはベンゾマスクの症状が出ていないように見える。私たちは顔を見合わせて頷く。「和輝に話を聞いてみよう」遼大がそう言う。「そうね、その方が良いかもしれない」私たちがそう話していると八重樫一晟が言う。「千堂弘は色々と実験をすると言っていた。愛沢くるみの事を人間だと思っていない節があるから、救い出すなら早い方が良いぞ」◇◇◇点滴が私の体の中に入って来る。愛欲の女王が私の体の中に入って来る……。最初は何も感じなかった。人生で何度か受けている点滴と同じで。けれど徐々に私の頭の中がボーっ
鉄製の扉を開ける。中はものすごく狭い部屋で、ベッド以外何も無かった。ベッドの上には八重樫一晟が座っている。入って来た私たちを見て、息を飲んだ。「高嶺……お前……もうあの麻酔薬が抜けたのか……?」その顔は驚き、呼吸は荒い。遼大がクスッと笑って両手を広げて見せる。「あぁ、この通り、もう抜けたよ。ここには優秀な医師が揃っているんだ」そう言って私と賀神さんを見る。「あの麻酔薬がそんなに簡単に抜ける筈無い……」八重樫一晟がそう呟く。賀神さんが抱えていたタブレットを取り出し、操作しながら言う。「確かに高嶺に噴霧したあの麻酔薬は、ちょっと特殊だったようだな」そう言いながら眼鏡のブリッジをクイッと上げる。「分析はさせて貰ったよ。私と佐伯顧問で」遼大が点滴を受けている間、遼大には血液を提供して貰い、私と賀神さんで遼大に噴霧された薬品の分析をした。今回、遼大はその麻酔薬を噴霧されただけで済んだのが不幸中の幸いだった。「あの麻酔薬は薬液をそのまま注射されていたら、お前の予想通り、回復までにもっと時間がかかっていただろう。だが、今回は噴霧された事で、薬液の本来の効果が半減した」賀神さんはそう言って微笑む。「高嶺を完全に無力化するのであれば、噴霧では無く注射すべきだったな」そう言われた八重樫一晟の表情が歪む。「俺はね、八重樫」そう言って遼大が八重樫一晟に向かって歩く。「EMSOという巨大な組織を率いるようになって、色々と学んだんだ」コツコツと足音が響く。一歩また一歩と自分に近付いて来る遼大を見て、八重樫一晟の顔に恐怖が滲んでいくのが手に取るように分かる。「もちろん、綺麗事だけでは片付けられない事もある。世の中、そんなもんだ。そうだろう? 八重樫」八重樫一晟は恐怖に顔を歪ませて言う。「近付くな! 俺に近付くな!」この人は何故、こんなにも怯えているのだろう。そう思ったけれど、その理由は至極、簡単だった。八重樫一晟に近付く遼大を尻目に賀神さんが私にタブレットを見せてくれる。そこには八重樫一晟が今までやって来た不正や、違法行為が連なっている。中には人体実験紛いの事まで書いてあった。(そうか、だから八重樫一晟は怯えているのね)ここは聖カトリーナの地下。そしてここへ来る事が出来るのは限られた人間のみ。自分が直接危害を加えた遼大、そして私。遼大の右腕
「八重樫理事長が捕まった?」私がそう聞くと目の前の乙藤氏が満足そうに頷く。「あぁ、遼大くんの手でな」乙藤氏は私を見て片眉を上げる。「遼大くんは今、日本で八重樫一晟の不正を八重樫一晟本人から聞いているところだそうだ」乙藤氏が私を見て身を乗り出す。「君は、どうするかね? 本宮くん」八重樫一晟は反高嶺派の筆頭。高嶺遼大の事が気に入らず、以前から邪魔だと思っていた私とも意気投合し、反高嶺で今までタッグを組んで来たが。八重樫一晟が落ちた今、反高嶺派は消滅するだろう。私一人では牽引出来ない……それ程までに高嶺遼大は完璧な人間だった。五年前にあの女、佐伯燈がEMSOに入局して、状況が少しずつ変わったと思ったが。しかも八重樫一晟の不正については、反高嶺派の人間のほとんどが一枚噛んでいる状態だ。つまりは関わっている人間全員が、今回の事で吊し上げられるだろう……私も含めて。がっくりと肩を落としている私に乙藤氏が言う。「八重樫一晟はやり過ぎたんだ。佐伯燈には手を出してはいけなかった」そう言われて顔を上げる。「あの女が何だって言うんですか!?」思わずそう聞くと乙藤氏が微笑む。「君は佐伯燈と話した事があるか?」そう聞かれて私は曖昧に首を振る。「あまり覚えてはいませんが、言葉を交わした事くらいはあるでしょう」そう言うと乙藤氏が私の顔を覗き込む。「佐伯燈と話してみて、感じなかったか? 遼大くんの庇護を」そう言われてみれば、佐伯燈の周囲には、まるで護衛のようにいつも高嶺遼大が居た。「佐伯燈は遼大くんの唯一の弱点であり、逆鱗なんだ」逆鱗……触れれば激高し、荒ぶり、誰も止める事が出来ないとされるもの……。「君が佐伯燈のデータを真壁早妃に書かせていた事も遼大くんは把握済みだ」乙藤氏は静かにそう言って、大きく息をつく。「眠れる龍は眠らせておいた方が良い。むやみに起こすものでは無い」今や強大になった高嶺家。EMSO創設当時はそれ程、強い家柄では無かったが、高嶺遼大の祖父の代から始まり、今の高嶺遼大に引き継がれた高嶺家はその規模も権力も絶大になっている。◇◇◇「さて、じゃあ八重樫一晟に会いに行くか」遼大がそう言って立ち上がる。「ダメよ、まだ動いたら」私がそう言っても遼大は微笑んで私に言う。「大丈夫。今回、怪我はしてないんだ。薬は抜けた」
「それで?」そう聞くと賀神さんは少し愉快そうに笑いながら、言う。「別に普通に採血しただけです」そう言う賀神さんに笑う。「でも注射器持って近付いて来られたら、怖くて逃げちゃうわね」私が笑いながらそう言うと賀神さんが眼鏡のブリッジを指でクイッと上げながら言う。「八重樫も逃げていましたよ。高嶺の部下が押さえて何とか採血しましたが」遼大が少し笑いながら聞く。「それで八重樫は何か他にも吐いたか?」そう聞かれた賀神さんが微笑む。「えぇ。EMSO内でどれだけの人間が八重樫側の不正に関わっていたのか、と……」そこまで言って賀神さんがスッと表情を硬くする。「愛沢くるみを千堂家に送った事、そしてその目的を」そう言われて私は聞く。「目的は一体、何なの?」そう聞くと賀神さんが少し溜息をついて言う。「千堂弘の目的は愛沢くるみの体に残る愛欲の女王の症状とその進行具合、そしてこれが一番重要なんですが」賀神さんはそこで言葉を区切り、私たち二人を見る。「どうやら愛沢くるみは特異体質のようで、可能性として愛欲の女王を中和するかもしれない可能性があるそうです」◇◇◇私はベッドに縛り付けられて、腕に何か刺される。見ればそれは点滴の針のように見えた。「何をするの?」震える声でそう聞くと白髪の青年・千堂弘は少し笑って言う。「何もしませんよ。あなたの体のメカニズムが見たいだけです」そう言われて私は聞く。「メカニズム?」そう聞くと千堂弘は面倒そうに言う。「私の兄は今まで素晴らしい研究をして来たんですよ。その最高峰がEMSO日本支局の地下にあるレプリトール・ディザスターという悪魔の薬。その原型として作られた愛欲の女王をあなたは長きにわたって使っている」私の腕に刺された針から私の血が伝い、チューブの中へ流れ込んでいくのが見える。「それなのにあなたはピンピンしている。兄はそれを代謝が良いからだと言っていましたが僕はそう思っていないんですよ」そう言ってチューブに流れて行く私の血を試験管の中に流し込む。「だから僕はあなたの体のメカニズムが一般人とどう違うのかを見たいんです」そう言って試験管の中に入った私の血を眺め、ニヤッと笑う。「それならそれで、私をこんなふうに拘束する必要性、無いじゃない」私がそう言うと千堂弘が私を見る。「もちろん、実験はしますよ。あ
私は高嶺と佐伯顧問の居る特別室を後にする。高嶺が体を起こし、動けるようになるまで、もう少し時間がかかるだろう。腕時計を見る。私たちがあのホテルの部屋を出てから1時間近く経っている。高嶺が佐伯顧問に渡してあった指輪に内蔵されていた麻酔薬は量から見ても、麻酔が切れるまでに30分程。もう八重樫一晟も覚醒しているだろう。高嶺の部下の人間に拘束させ、八重樫もまた、聖カトリーナに運び入れた。不測の事態を防ぐ為と、聖カトリーナに入って貰った方が都合が良かったからだ。高嶺の居る特別室を出て、聖カトリーナの地下へ向かう。そこは基本的には使わない場所だが、今回は特別に久遠先生にご協力を頂いた。入り口は一つ、そこは高嶺の部下が警備にあたっている。警備の人間は私を見ると一礼し、中へいれてくれる。コツコツと冷たい足音が響く。私は薄暗いその地下の廊下を歩き、一つの鉄製の扉の前に立つ。鉄格子のはめ込まれている小さな窓から中を覗く。中にはベッドが一台置いてあり、そこに八重樫一晟が横たわっていた。両手足に枷をはめられた状態で。ガチャン!!そんな大きな音がして鍵が開き、鉄製の扉が開く。その音で八重樫一晟は体を起こし、私を見る。「これはこれは、高嶺総帥の腰巾着の賀神くんじゃないか」こんな状態で何をどう言われようが、相手は脅威では無い。私は入り口付近に立ち、腕を組んで言う。「麻酔薬は切れたようだな」私がそう言った事で、八重樫一晟は眉間に皺を寄せて言う。「仮にも、私は君よりも上の人間だぞ、口を慎め」そう言われて私は思わず鼻で笑う。「口を慎むべきは、あなたの方ですよ、理事長」八重樫一晟はそう言った私を笑い、言う。「君のような清廉潔白な人間には、何も出来ないだろう?」八重樫一晟はそう言ってガチャガチャと手枷と足枷の音をさせながら、ベッドに腰掛ける。「あれは誤解だよ」そう言ってクスッと笑う八重樫一晟は私を見る。この男は本当に、心の底から私が一線を踏み越えないと思っているんだろう。鉄製の扉の前に待機している高嶺の部下に言う。「入れろ」私がそう言うと、カチャカチャと音を立てて、ステンレス製のサービングカートを押した高嶺の部下が入って来る。もう一人の部下は私にラテックスの手袋を差し出す。私は腕まくりをしてラテックスの手袋をする。「な、何をする気だ……?」運び入れられたステ
聖カトリーナに入る。待ち構えていた湊が先導し、遼大は特別室に入り、早速、湊の指示で遼大の全身の検査が始まった。「何があった?」湊にそう聞かれて私は私たちに起こった事を説明する。検査に出た遼大には賀神さんが付き添った。私から話を聞いた湊が聞く。「それで、八重樫一晟は?」私は首を振る。「遼大の部下の人たちに任せて来たから、彼がどうしているのかは私は知らないわ」私がそう言うと湊は苦笑する。「まぁ、高嶺さんの事だから、ただでは済まさないだろうけどな」以前、千堂彰を捕らえた時もそうだった。遼大は秘密裏に秘匿施設へ千堂彰を連れて行き、拘束した。今度もまたEMSO内部のゴタゴタなのだ、きっと遼大は部下の人に何か指示を出しているだろうと思えた。「じゃあ現場に愛沢くるみは居なかった訳か」湊にそう言われて私も頷く。「えぇ、ホテルの部屋には私と遼大と八重樫一晟、その部下の人しか居なかったわ」湊が考え込む。「じゃあ愛沢くるみは……千堂弘と一緒って事か」千堂弘……白髪の青年で、あの千堂彰に異母弟。「千堂家に居るのかしら」そう呟くように言うと湊が言う。「そうかもしれないな。だが……」湊が難しい顔をする。「俺たちが千堂家に行って、仮にそこに愛沢くるみが居たとしても、千堂家に入る理由が俺たちには無い」そう言われてしまうと、その通りだ。しかも愛沢くるみは自分の意志で彼らについて行ったのだ。でも今はそれを主導していた八重樫一晟は拘束されている筈だ。という事は今は千堂弘一人で動いているのだろうか。「検体って言ってたわよね……」私がそう言うと湊が苦笑する。「言ってたな……」愛沢くるみを検体と呼び、検体と呼ぶからには、その先には……そう想像してゾッとする。「とにかく今は、高嶺さんの体の心配が先だ。八重樫一晟についても調べたら色々と出て来るかもしれない」◇◇◇遼大の検査結果が出た。「やはり思った通り、筋弛緩剤の類でしたね」賀神さんがそう言う。「じゃあ特別な薬品の投与なんかはしないで済みそうね」私はそう言ってホッと胸を撫で下ろす。ベッドに寝かされた遼大が言う。「ハイドレーションを始めてくれ」そう言われて私も賀神さんも互いに顔を見合わせて頷き合う。すぐに点滴の用意が始まった。「高嶺、お前はどっちが良い?」賀神さんがそう聞く。「何が?」遼